白望から相談を受けたトシ修道士は、エイちゃんからもう鞍替えしたのかい?と言って、呆れていた。
そうは言うものの、二人の恋に両家の不和を終わらせる一縷の光を感じ、恋の手助けをしてくれることになる。
秘密裏に結婚式を済ませた白望はその帰り道、臼沢家のトヨネと出くわした。
白望は、たった今血縁関係になったばかりのトヨネとの諍いを避けようとする。
しかし共に歩いていた白望の親友のクルミは、白望の煮え切らない態度に腹を立て、剣を抜いた。
白望はすぐに止めに入ったが、トヨネの剣は白望の腕の下をすり抜け、クルミを貫いた。
クルミは両家の不和を呪いながら死んでいった。
親友を失った白望は怒り狂い、クルミの仇を打つ。
真昼の街中で起きた惨劇は瞬く間に人々に知れ渡った。
殺人を犯した白望は、宮守からの永久追放を受けた。
結婚式を終え、有頂天になっていた塞の元に、この知らせが届く。
実は白望は残忍な女だったのだ、という乳母の言葉に同調していた塞だったが、次第に冷静になり、慕っていた従姉妹のトヨネが死に、愛する白望が生き延びたことを喜んだ。
しかし、宮守からの永久追放は、すなわち彼女らにとって永遠の別れを意味していた。
トシ修道士のもとで、宮守からの追放を死よりも辛いと嘆く白望がいた。
修道士は、死刑を逃れただけでも幸運じゃないかしら、と白望を諭す。
それに気づいた白望は、その夜を塞と過ごし、翌朝に東京に発つことを決意した。
二人は夫婦として、初めての一夜を過ごす。
しかし、夜が明ければ別れが待っている。
希望の光溢れる朝は、今日に限っては甘いひとときを壊す恨むべき対象でしかなかった。
娘が白望と結婚したことなど知るはずもない塞の父は、塞とハツミの結婚話を進める。
塞はこの話からあの手この手で逃げようとしたが、父は耳を貸さなかった。
塞は藁にも縋る思いで、トシ修道士に助けを求めることにした。
修道士は塞の勢いに負け、ある命懸けの策を持ちかける。
それは、四十二時間仮死状態になる薬を飲み、死者として霊廟に埋葬され、目覚めたところに白望を向かわせて駆け落ちする。
要約するとそういうものだった。
塞はこの策を飲み、ハツミとの結婚式の前夜、死の危険も覚悟し、薬を飲み干した。
翌日、臼沢家では悲しみに包まれる中葬儀が執り行われた。
塞は臼沢家の霊廟に安置される。
それをみた白望の召使いは主のいる東京に発った。
しかしそれよりも前にトシ修道士は白望宛てに、仮死から蘇った塞を連れ東京で暮らすよう、手紙を送っていたのだが、不運なことに戻ってきてしまっていた。
白望は召使いから塞の死を知ると、後を追って死ぬ決心をして、宮守へと急いだ。
白望はやっとのことで臼沢家の霊廟に着いた。
そこには塞の死を悼んでハツミが花を手向けていた。
「お前はトヨネを殺した犯人じゃないですかー」
「私のフィアンセまでをも侮辱しにきたんですかー?」
ハツミは剣を抜く。ハツミの従者は慌てて人を呼びに走り去った。
「ダルい...邪魔」
白望はしばらくハツミと斬り合ったが、ついに止めを刺した。
白望は塞の墓前に駆け寄る。
「サエ!」
「やっと会えた、ねえサエ...」
「まだ微かに暖かい...」
「私たちはなにも間違ったことなんてしていない」
「それなのにどうしてこんなにうまくいかなかったんだろう...」
「サエ、これからはいがみ合いのない世界で幸せに暮らそう...」
白望は塞に接吻する。
「これが地上での最後のキス...」
「今、サエのところに行くよ」
白望は腰に携えた短剣を胸に突き刺した。遠慮などなかった。
「うーん、ここはどこ...?」
「そうだ、私は薬を飲んで、埋葬されたのか」
「二度と起きれないと思ったけどよかった、怖かったよ」
仮死から蘇った塞は、とりあえず立ち上がると何かに躓いた。
「なに、今のは」
「嫌だ、誰か倒れてるじゃない!」
隠れていた月明かりが差す。塞と白望が照らし出される。
「嫌、嫌だよ!シロ、シロ!」
「なんで、ねえ、シロ、起きてよ、血が、なんで、こんなことに、ねえ、シロ!」
塞は白望を揺さぶる。
「なんで、せっかくうまくいったのに、あなたと会うために薬まで飲んだのに」
「それだけを信じて眠りについたのに、なんで、私はなにか悪いことをしたの?」
「なんでこんなに歯車が狂うの、ねえ!」
「もう、こんな世界なんていらない」
「争いのない綺麗な世界で、また、二人で手を取って歩こう」
「でも、私に最後の勇気をちょうだい、シロ...」
塞は白望の握っていた剣で、自分の体を突く。
「痛い、痛いよシロ」
「ああ、シロ、まだ暖かいのね」
「私が感じたこと、すべてなくなっても、二度と帰ってこなくても」
「私はきっとそばにいるよ、ずっと、ずっとあなたのそばにいるよ」
「お休み、お休みなさい、シロ...」
塞は白望に最後の口づけをした。塞は白望の上に崩れ落ちる。
そこに残ったのは夜警の足音、ただそれのみだった。
カン!
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